I told you a lie

他愛もない日記や感想文

罪と罰、そして「裁かれる」という救いの話(ちいかわ)

最近は、周りの結婚報告とか、終わらない結婚式投稿に耐えられなくて、身近な人達と繋がっているSNSは見るのをやめてしまっている。

はー異性愛前提の法的契約なだけなのに、なぜこんなに「愛」があるように見えるのかね。そして無条件に祝わなければならない雰囲気が耐え難い。

なーにが入籍だ、鬼籍に入ってろ。婚姻制度をぶっつぶせ。

 

と、SNSから離れようとしているのですが、ついつい見てしまうX(Twitter)にて、今最もHOTなのは「ちいかわ」ですよね!

可愛らしい絵柄に似つかわない重たいストーリーですでに有名ですが、現在投稿されているリゾートバイト編の重たさたるや……。

ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ(1) (モーニングコミックス)

私自身はちいかわというキャラクターのことは別に好きではなく、むしろ嫌いな部類なので、グッズはおろか投稿もちゃんと追っているわけではない。

それでもフォローしているホラー有識者たちがこぞってRTしてくるのでぼんやり読んでいたのだけれど、リゾバ編はすごい……!すごい、罪と罰の話だった。

 

めちゃくちゃネタバレしながら感想を書いていくので、読んでない方は読んできてください。

 

「犯した罪と与えられた/与えられなかった罰」というのは昔からドラマになりやすい題材であり、数多の物語が生み出されてきている。それこそドストエフスキーの「罪と罰」もその一つでしょう。

今回のリゾバ編もこの「罪と罰」がテーマであり、「裁かれなかった罪がもたらす罰」の物語だということが11月くらいからの更新分で明らかになってきた。

前半というか、中盤までほぼ青春バトルモノって感じで全然好みではないのだけれど、「永遠の命を手に入れたのが誰か」がわかりだしたあたりから空気が変わってくる。しかもそれを知るのが「ちいかわ」という物語の妙よ……!ともすれば全滅ということにもなりうるこの最悪の状態でも、優柔不断で気の弱い生き物が他者を糾弾することなどできないわけで。

それでも結果として、ちいかわサイドは(恒久的にかは不明だが)敵を退ける。そして大団円……。と思いきや、人魚殺害犯たちの回想に入る。彼がなぜ「永遠の命」を欲したのか、がセリフなく語られていく。

 

この回想がまた「憎しみの連鎖」や「復讐の連続性」をありありと表しているよね。

そもそもの事の始まりは、あの島民が愚かな好奇心でセイレーンたちに近づいたことで、事故に巻き込まれたという、ある種自業自得とも言える「事故」であった。

しかし彼らは自らの愚かさを拡張するかのように、「人魚」を殺害して食べ、「永遠の命」を手に入れてしまう。仲間を殺されたセイレーンは、その復讐として犯人探しの虐殺を始める。それを傍観し続ける犯人たち。そして第三者の介入によって、一方的に罰せられるセイレーン……。

物語ではセイレーンが悪として描かれるわけだけれど、果たしてそうなのだろうか?もちろん、殺した数でいえばセイレーンのほうが多いだろう。でも「人魚殺害」がなければ起こらなかったのでは……。

 

そして読み返しながら感じたのが、この犯人たちの「見通しの甘さ」と「中途半端な罪悪感」。永遠の命を手に入れるということがどういうことか、少しでも考えなかったのか?とか罪のない島民が襲われることは傍観していた割に、ちいかわたちの討伐には手助けするところとか。

「見通しが甘い」ことで自分たちは永遠の命を手に入れ、島民は殺された。「中途半端な罪悪感」は結局自白までには至らない。なんともはや!

 

ここで「罪と罰」の話に戻すと、このリゾバ編での罪とはなんなのだろうか?

人魚を殺したこと?島民を見殺しにしたこと?(現時点では)最後まで罪を告白しなかったこと?

また、罰とはなにか。もちろん、セイレーンに罪を告白し、「なんかずっと暗いところ」に閉じ込められるのも罰でしょう。しかしこれはある種、肉体的な罰であり、精神的には、秘密の暴露ができてスッキリするのでは。さらに、他者から与えられる罰は、甘んじてそれを受け入れることで、許されている気分になれるしね。

だからこそ、このまま二人で罪を抱え続けて生きるというのも、精神的な罰といえるのかもしれない。たぶん、どんなに楽しいことをしていても、自分たちの犯した罪がふと頭を過り、後ろめたい気持ちになるだろう。死ねば終わるが、残念ながら彼らは永遠の命。永遠に「なんかずっと暗い」気持ちで生き続けるのもまた一つの罰。

さらにいえば、精神的な罰には期限がないし、許しもない。ずっと、永久に、自責の念を抱えて生きる。

 

なんでSNSで、こんな可愛い絵柄で、なんか朝にアニメとかもやってるのに、こんな薄暗い重たい邦画みたいなストーリーを……子供とか読んで大丈夫なのかな、泣いちゃわない?

三者でしかないちいかわが犯人を知ってしまったのも可哀想すぎる!ちいかわもまた小さな罪悪感(助けてもらったセイレーンに真実を隠し続ける)を抱えて生きることになってしまったのよ。酷い話だ……。

 

「目には目を」で有名なハンムラビ法典ですが、元々は報復を推奨する意図ではなく、「やられた分だけやり返して、それで終わり!」という連鎖を断ち切る意図で書かれた、という話を昔聞いた。(真偽不明)

今回のリゾバ編も、ハンムラビ法典に則っていればこんな大事にはならなかったと思うし、あの二匹が罪を抱え続けることもなかったのだろうな。悲しいね。

しかし実世界でも、ちいかわリゾバ編と同じように復讐は日々繰り返され連鎖し続けており、やられたらやり返す、というのはきっと正しいことではないのだろう。でもどうしたら折り合いがつけられるのだろうね。うーん……。